オムツ替えのたびに水のような便が続き、赤ちゃんがぐったりしている…
そんな状況を見ると、ママの頭の中は「脱水」の二文字でいっぱいになるでしょう。下痢は、赤ちゃんが短時間で最も深刻な脱水状態に陥りやすい危険なサインです。
特に、ロタウイルスやノロウイルスなどの感染性胃腸炎は、飲ませた水分さえもすぐに流出させてしまいます。「何を」「どうやって」飲ませれば、この危険な状態を乗り越えられるのか。このセクションでは、下痢の時に水分補給が命綱となる理由を詳しく解説し、経口補水液の正しい使用法や、ママが自宅でできる具体的な緊急対応策をお伝えします。

1. 下痢の時、水分とミネラルが「ジェットコースター」のように失われる理由
下痢による脱水が危険なのは、単に水分が失われるだけでなく、「体内の電解質(ナトリウムやカリウムなど)」も同時に大量に失われるからです。この電解質のバランスが崩れると、体の機能が正常に働かなくなります。
- 腸管からの大量流出: 下痢は、腸の粘膜が炎症を起こし、水分や電解質を吸収できずにそのまま排出してしまう状態です。
- 水分の「再吸収」の失敗: 通常、大腸で水分は再吸収されますが、下痢が続くとその機能が停止します。
- 嘔吐の合併: 下痢を伴う感染症では、嘔吐を併発することが多く、口からの水分補給が難しくなり、脱水がさらに加速します。
下痢の時の水分補給は、失われた水分と電解質を正確なバランスで補給することが、薬以上に重要になります。
2. 下痢を悪化させない!経口補水療法(ORT)の鉄則
下痢の水分補給は、世界的に推奨されている「経口補水療法(Oral Rehydration Therapy: ORT)」に基づき行います。キーとなるのは経口補水液(ORS)です。
2-1. 経口補水液(ORS)の重要性と選び方
- ORSの役割: 水分、糖分、塩分が体液に非常に近いバランスで含まれています。糖分は、腸の細胞がナトリウムと水を一緒に吸収するのを助ける役割を果たします。
- 乳児用を選ぶ: 市販の大人用ORSは、赤ちゃんには塩分濃度が高すぎる場合があります。必ず乳児用または小児科医が推奨するORSを使用してください。
- 与える量: 医師の指示に従い、下痢の回数や重症度に応じて補給します。
2-2. 与え方と避けるべき飲み物
| 状況 | 推奨される飲み物 | 避けるべき飲み物 |
|---|---|---|
| 下痢・嘔吐時 | 経口補水液(ORS)、母乳(頻回に) | 果汁100%ジュース、大人用スポーツドリンク |
| 症状軽快後 | 薄い麦茶、白湯、米湯(お粥の上澄み) | 牛乳・乳製品(下痢を悪化させる可能性)、炭酸飲料 |
| 与え方 | スプーンで5~10分おきに少量(5ml)ずつ | 一気飲み(嘔吐を誘発) |
母乳・ミルクの扱い: 下痢の場合でも、母乳は中断せずに頻回に与えることが推奨されています。ミルクは種類によって下痢が悪化することがあるため、医師と相談して一時的に無乳糖ミルクなどに切り替える場合があります。
3. 【ママの視点】下痢看病を乗り切る「安心のルーティン」
何度もオムツ替えをし、赤ちゃんの機嫌も悪い下痢の看病は、本当に心が折れそうになります。ママの「頑張っているのに治らない」という不安な気持ちに寄り添い、少しでも看病を楽にするための工夫をご紹介します。
3-1. 感染拡大を防ぐ「徹底消毒」のルーティン
下痢の原因がウイルス性の場合、家族への感染を防ぐことが重要です。
- 嘔吐物・便の処理: 処理時には使い捨ての手袋を使用し、ビニール袋に密閉して捨てます。
- 次亜塩素酸ナトリウム(ハイターなど): 処理後の床や衣類は、次亜塩素酸ナトリウムを薄めた消毒液(ハイターなどを規定濃度に薄めたもの)で拭き取り、ウイルスを不活化させます。(アルコールは効きにくいウイルスがあるため)
3-2. 「オムツかぶれ」対策で二次被害を防ぐ
水っぽい便は刺激が強く、すぐにお尻がかぶれてしまいます。かぶれがひどいと、赤ちゃんはさらに機嫌が悪くなり、体力も奪われます。
- 洗い流す: オムツ替えの際は、おしりふきでゴシゴシ拭かず、シャワーや洗面器のぬるま湯で洗い流しましょう。
- しっかり保湿: 乾燥させた後、ワセリンや医師から処方された軟膏を塗って保護します。
4. 下痢・嘔吐時の「緊急」受診チェックリスト
以下のサインが見られた場合、緊急で点滴などの処置が必要となる場合があります。ためらわずに医療機関を受診してください。
| 緊急度の高いサイン | 脱水の重症度 | チェックポイント |
|---|---|---|
| ショック状態 | 重度 | 呼びかけに反応しない、ぐったりして意識がない。 |
| 尿量の激減 | 中度〜重度 | 8時間以上おしっこが出ない、または全く出ていない。 |
| 嘔吐が続く | 中度〜重度 | 水分を与えてもすぐに吐いてしまい、全く口から補給できない。 |
| 異常な呼吸 | 重度 | 速く浅い呼吸、または深く大きい呼吸(ケトーシス)。 |
| 目のくぼみ | 中度〜重度 | 目がくぼんでいる、大泉門が凹んでいる。 |
5. ママの疑問を解消!下痢の水分補給Q&A(疑問解消)
- Q1: 下痢の時に、食事は控えて水分補給だけにした方が良いですか?
- A1: 下痢の症状が落ち着いてきたら、無理のない範囲で食事も再開しましょう。極端な絶食は体力の低下を招きます。最初は米湯、お粥の上澄み、よく煮込んだうどんなど、消化の良い炭水化物から少量ずつ再開してください。「下痢でも食べられるものから食べる」のが今の主流です。
- Q2: 経口補水液を飲ませると、下痢の回数が増えた気がしますが大丈夫ですか?
- A2: ORSは電解質バランスが良く吸収されやすいですが、飲んだ分、便の量が増えるように見えることがあります。しかし、脱水が予防できていれば問題ありません。重要なのは「おしっこの量が出ているか」「機嫌が悪くないか」です。下痢が治まらない場合は、小児科医に相談してください。
- Q3: 下痢が治まった後、牛乳やヨーグルトはいつから与えても良いですか?
- A3: 腸の粘膜が完全に回復するまで、牛乳などの乳製品はしばらく控えた方が安全です。目安としては、下痢が完全に治まってから2〜3日後に、ごく少量から再開してください。治りかけで与えると、再び下痢が再燃する可能性があります。
- Q4: 下痢の時、お茶や白湯に塩や砂糖を入れて手作りのORSを作っても良いですか?
- A4: 厳密な電解質バランスの調整は非常に難しく、間違った濃度で与えると腎臓に負担をかけたり、かえって脱水を悪化させたりするリスクがあります。下痢の時は、市販の乳幼児向けORSを使用することを強くおすすめします。
- Q5: 高熱と下痢でぐったりしています。すぐ病院に行った方が良いですか?
- A5: はい、すぐに受診が必要です。特に、おしっこが全く出ていない、ぐったりして意識が朦朧としている、嘔吐が止まらないといったサインが見られたら、救急車を呼ぶか、緊急で医療機関へ向かってください。下痢と高熱のコンボは、脱水の進行が速いため、迅速な対応が求められます。
6. まとめ:ママの冷静な判断力が命を救います
終わりが見えない水のような便、そして赤ちゃんのぐったりした様子…。下痢の看病は、ママが最も精神的に追い詰められる時です。「私が何か悪いものを食べさせたせいかも」と自分を責めていませんか?大丈夫です。それは、ウイルスや細菌の仕業であり、ママの責任ではありません。オムツ替えをしながら、何度も心を立て直しているママの頑張りは、誰よりも尊いものです。
しかし、もう恐れる必要はありません。あなたは今、下痢の時に水分だけでなく**「電解質」が失われるという重要な事実と、経口補水液を少量頻回で与えるという科学的な対処法を学びました。不安は「命を守る冷静な判断力」へと変わり、赤ちゃんの危機を救うことができます。あなたの冷静さが、赤ちゃんにとっての最大の安心材料です。
今日から、「赤ちゃんの嘔吐後30分は胃腸を休ませる」というルールを徹底してください。そして、ORSと計量スプーンを手に、まずはスプーン一杯を赤ちゃんの口元に持っていきましょう。この一口が、赤ちゃんの命を繋ぎ、回復へと導く第一歩です。下痢が治まっても、あと2日は消化に優しい食事を続けることも意識しましょう。ママの確かな愛で、この苦しい時期を乗り越えましょう!